柳の下に猫は2匹いない

戦前日本映画史ネタの覚え書き

『霧笛』鑑賞記~村田実と中野英治、そして志賀暁子~

12月23日、神戸映画資料館にて念願の村田実監督『霧笛』(1934)を鑑賞した。明治期の外人居留地を舞台に、異人のクウパー(菅井一郎)のもとで下男として働く元スリの千代吉(中野英治)は、喧嘩の強さから地元のやくざを取り仕切る豚常(村田宏寿)に目を…

神戸クラシックコメディ映画祭2020 『國士無双』・『続清水港』解説再録

本記事は2020年1月11日~13日に神戸映画資料館と旧グッゲンハイム邸にて開催された神戸クラシックコメディ映画祭のプログラム、『國士無双』(1932)、『続清水港』(1940)の上映に際して配布した解説資料の再録(一部省略)です。 片岡千恵蔵略歴 1903年3…

鈴木傳明と田中絹代は不仲だったのか

田中絹代が女優としての名声を高めはじめたのは1927年、『真珠夫人』(池田義信監督)に栗島すみ子の娘役で助演してからだ。松竹の大幹部であり大スターの栗島と共演することは当時の女優の目標になっていた。それまでの絹代はお世辞にも美人とはいえない容…

光喜三子に関するあれこれ

平凡社が1929年から全10巻で出版した『映画スター全集』の第6巻に高田稔の特集がある。その中に掲載されている当時4歳(撮影時)の長女は前妻との子供であり、再婚した光喜三子との子供はいないと思われる。高田は帝国キネマから東亜キネマへ移籍した頃(192…

映画『虞美人草』(1941)と『三四郎』

夏目漱石原作の『虞美人草』は過去2度映画化されている。最初の映画化作品となる溝口健二版(1935)を見た記憶はあるのだが、内容は完全に忘れてしまった。概要を確認してみると主人公を宗近に、ヒロインを小夜子に据えたものに変更しているらしい。現存する…

入江たか子をめぐる五人の男

入江たか子『映画女優』(学風書院 1957年) 入江たか子は1927年のデビューから一躍スターの座に上り詰めた。華族のお姫様という話題性はマスコミの注目を集めたが、当時の東坊城家は没落貴族でありひたすら家族を養うために選んだ女優という道だった。本作…

岡田時彦「時彦戀懺悔」

『漫談レヴィウ 徳川夢声・岡田時彦・古川緑波集』(1929年 現代ユウモア全集刊行会) 岡田時彦は当時から名文家と謳われたほど味わい深いエッセイをたくさん書いている。本作において、徳川夢声や古川緑波といった優れた随筆家と並んで収録されたということ…